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zoom RSS 宮本輝の「田園発 港行き自転車」を読み終え、幸せな気持ちで満たされる

<<   作成日時 : 2015/07/05 21:21   >>

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宮本輝さんの富山でのスペシャルトークの会場で「田園発 港行き自転車」の上巻を購入し、3週間ほどで読み終え、続けて下巻に入り、下巻は4日間で読み終えることができた。一気に読んだ感じだ。読み終えた後にこんなに満ち足りた思いを抱いた小説は久しくなかった。

「田園発 港行き自転車」は富山県入善町の素晴らしさを二十歳の脇田千春が自分の送別会で語る場面から始まる。千春は高校を卒業してから東京に出てきて建設機械リース会社に勤めていたが、東京での暮らしが合わず、富山に帰ることにする。千春の会社の上司である川辺康平は、送別会終了後、友人の日吉京介が営む渋谷のバー「ルーシェ」に向かう。そこで日吉はかつて富山の旧北陸街道を20キロあまり歩いたことを話す。
それを聞いていたのが賀川真帆で、彼女はかがわまほという童画作家として活躍しているが、15年前、父の賀川直樹は富山の滑川駅で病気で急死していた。その日は宮崎に行っていたはずなのに。

そして、もう一人、富山市内で美容院「カットサロン・ボブ」を営む美容師、夏目海歩子とその息子・佑樹15歳。これらの人物に、京都の出版社でかがわまほ担当の編集者の寺尾多美子(タミー)、京都で建設会社を経営していたものの倒産し、その後、金沢で警備会社を立ち上げたシゲオちゃん(北田茂生)、カガワサイクルの元社長の平岩壮吉、京都で御茶屋風バーを経営する甲本雪子、京都の芸妓ふみ弥などがからんで豊饒な物語が紡がれていく。

上巻では一人ひとりの登場人物がそれぞれ登場して紹介されるという感じだが、下巻に入るとそれぞれの人物の間が繋がれていって、物語が一気に動き出す。そして、ラストに至って、すべてが見事につながる。
一見、関係がないように見えた人たちが実はつながっているということ、つながっているというよりも、つなげようと尽力した人がいたからこそ、つながることができたのだ。この小説では、メインの人物は賀川真帆、脇田千春、夏目海歩子といった女性たちだが、その脇にいるシゲオちゃん、平岩壮吉、川辺康平といった大人の男性たちがいたからこそ、これらの女性たちは輝くことができたのだ。

心根のきれいな人のまわりには心根のきれいな人が集まり、美しい世界が築かれていくということを宮本輝はみごとに物語で描いてみせた。「現実ではありえないよ」という声が聞こえてきそうだが、現実が汚なければ汚いほど、それをどうやって変えていけばいいのか、変えることは可能なのだという希望を読者に与えてくれる作家の存在意義は大きいのではないだろうか。
甲本雪子の母親や置屋「はせ川」の女将のような人生の大ベテランの世代、働き盛りの世代、未来に生きる千春や佑樹などの若者という三世代を描き分け、人生の各ステージにおける生きることの意味も問いかけているように感じた。
そして何よりも富山の豊かな自然がその小説を光あふれるものにしている。スペシャルトークの会場で上映された作品の舞台となる場所のスライド映像が読んでいる途中に何度も蘇ってきた。

この作品は間違いなく宮本輝氏の代表作の一つになるであろう。読む人の年齢によって受け取り方はさまざまかもしれないが、どんな年代の人が読んでも読みごたえがあると思う。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。

素敵な感想、ありがとうございます♪
シェアさせていただきますね。
宜しくお願いします。

大阪BIN
大阪BIN
2015/07/08 18:02
大阪BINさん、ブログを読んでいただき、ありがとうございます。「田園発 港行き自転車」は読み終わった後も、登場人物のことが知り合いのように思われる愛おしい作品です。
雄さん
2015/07/09 08:26
書中お見舞い申し上げます。

伊丹市でのトークショーのダイジェストです。
宜しかったらお読みください。
https://www.youtube.com/embed/ZwJ19zMU8YA
大阪BIN
2015/07/26 14:07
大阪BINさん、書き込みありがとうございます。
伊丹市でのトークショー、拝見させていただきました。
宮本輝さんの軽妙ななかにも静かな決意のこもるお話が聞けてうれしく思います。
それにしても今日は暑かった!
雄さん
2015/07/26 22:03

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