二、三十年ぶりで松本清張を読む、短篇集「駅路」が面白かった

画像
松本清張は30年ほど前に、いやもっと前か、「点と線」や「ゼロの焦点」など何作か読んだが、その後はテレビのサスペンスドラマで放送されると観ていたが、原作のほうは遠ざかっていた。それがなぜか、有吉佐和子の「悪女について」を読み終わった後、何を読もうかと書店で探していたら松本清張の短篇集に目がいき、面白そうだったので購入し、読んでみた。

久しぶりに読む清張は面白かった。かつて読んだのは長編ばかりで、短編を読むのは今回が初めてだったこともあり、新たな魅力を発見した気がする。

タイトルになっている「駅路」は数年前に、役所広司、深津絵里らが出演したドラマが印象に残っていて(木村多江も悪女役で出演)、この本に目が行ったのかもしれない。全部で10編が収められている。簡単に感想を書いてみたい。

「白い闇」石炭商の男が東北、北海道に出かけたまま帰ってこないため、夫の従弟に相談すると、夫には青森に愛人がいたことが判明する。妻は青森まで行くが、その愛人というのは実は…。たくましい夫に満足しながらも本を読まない夫に対し物足りなさを感じ、文学を愛好する夫の従弟にも好意を持つ女心の描写が興味深かった。

「捜査圏外の条件」自分の妹と不倫関係にあり、一緒に旅行に行った先で急病死した妹を置き去りにして逃げた同僚に復讐するため会社を辞め、7年の時を待って、相手を殺害することに成功したはずだったが、妹の好きだった流行歌によって犯行が発覚してしまうという話。新宿の二幸が出てくるのが懐かしい。

「ある小官僚の抹殺」政治家を巻き込んだ汚職事件の鍵を握る中央省庁の課長が自殺に追い込まれ(実は殺された?)、捜査の手は政治家にまで及ばず、打ち切りになるという物語。清張の得意な汚職事件ものの原型ともいうべき作品。「中央流砂」の原型か。

「巻頭句の女」俳句雑誌の投稿の常連の女性からの投稿が途絶え、心配した雑誌の同人が女性の入院先を訪れてみると男性と結婚し、退院したという。雑誌の主宰者である医師は不自然さを感じ、女性の退院後を追っていくと、女性は亡くなっていた。しかし、その裏には女性と結婚した男の策謀があった。俳句をうまく織り込んであり、病死した女性の哀れさが際立つ。

「駅路」銀行を定年退職した男が1人旅に出たまま行方不明になる。真面目一筋と思われた男には実は支店勤務時代の部下とひそかに交際を続けていた。ゴーギャンの絵が効果的に使われている。二度ドラマ化されていて、1度目は女性をいしだあゆみが、2度目のドラマでは深津絵里が演じ、どちらも印象的。
ラストの、「ゴーガンには絵があった。小塚さんには絵の代わりに好きな女性がいた。ところがだね、君、ぼくはどうだ。何も無い。何も無くても残りの人生を忍耐していくより仕方がない。我慢のしつづけさね」という呼野刑事の詠嘆はずしっとくる。

「誤差」東海道線から支線にはいった山奥にある温泉に泊まった都会的ではっとするほど美しい女が宿泊してから三日目に男がやってくる。その2日後、男がバスに乗ってふもとの書店まで行ってから宿に戻ると30分ほどで再び宿を出ていく。妻はよく寝ているのでそのままにしておいてほしいと言いおいて男は出ていったが、その後、その部屋を訪ねてみると女は死んでいた。二人の医師の死亡時刻の推定時間に微妙な差があった。どうみてもその男があやしいと思われるが…。ドラマなどでもよく聞く、死亡推定時刻というものに焦点をあてた作品。

「万葉翡翠」には万葉集が登場する。「渟名河の底なる玉、求めて得まし玉かも、拾ひて得まし玉かも、惜しき君が老ゆらく惜しも」(3247)について古今の万葉学者の解釈を紹介した後、この玉は翡翠であり、しかも新潟県の頚城地方ではないかとの自説を披露し、それを現地で確かめてきてほしいと3人の学生に考古学の助教授は依頼する。3人の学生はそれぞれの考える場所を訪れ翡翠の原石を探すが、2度目の調査から一人の学生が戻ってこなかった。そして翌年に…。万葉集が登場し、清張の古代史への関心がうかがえる作品。万葉集のほかに短歌や植物も事件解決のヒントとなるのが面白い。

「薄化粧の男」吝嗇で女好きの会社課長が車の中で死んでいるのを通りかけた新聞配達の少年が発見する出だしがうまい。被害者の妻と愛人は憎み合っていたかに見えたが…。

「偶数」優秀な自分が会社で出世できないのは営業部長が自分を軽んじるからだと思い込み、営業部長を破滅させるために部長の愛人の女性を絞殺し、その罪を部長に着せ、破滅に追い込むという作戦は見事に成功したかに思えたが、犯行現場から乗ったタクシーの運転手が彼の前にあらわれたことによってくるっていく。犯人が犯行を計画してから実行するまでの描写が読ませる。

「陸行水行」は邪馬台国が九州にあったか大和地方にあったかという古代史最大の謎をテーマにした作品。大学の講師の男が大分県の宇佐神宮の調査に訪れると一人の在野の邪馬台国研究者とであう。相手は魏志倭人伝に関する自説を解説する。在野の研究者に好意を持った大学講師だったが、その時に渡した名刺が悪用されてしまう。途中までは完全に邪馬台国までの道のりをめぐる話で、これがミステリーになるのだろうかと思うが。清張の古代史への知識が披露された作品で、この後、古代史は彼のライフワークの一つとなっていく。

このように1作ごとに切り口の異なる作品となっていて、あらためて松本清張の多才さに驚かされる。そしてどの作品も読んでいて映像が目に浮かぶのだ。多数の作品が映像化されていることを読んでいてよく理解できた。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック