新・校正者のひとりごと

アクセスカウンタ

zoom RSS 読み終わってから余韻が残る宮本輝の「三千枚の金貨」 

<<   作成日時 : 2015/03/28 22:52   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

画像
宮本輝の小説「三千枚の金貨」を読み終えてから1週間が経つが、時間の経過とともに小説の中のいろいろな場面が浮かんでくる。読み始めたときにはいまいちかなと思っていたが、結構味わい深い小説だったなと思うように変化している。

「三千枚の金貨」は光文社の男性誌「BRIO」に2006年から2009年まで連載され、2010年に単行本が発刊されている。文具会社マミヤに勤める斉木光生が中国の新疆ウイグル自治区とカラコルム山脈地方への旅から帰国するところから小説は始まるが、冒頭、5年前に光生が入院した時に病院の談話室である男から聞いた、和歌山県の山の麓の桜の木の下に3000枚の金貨を埋めたという話が唐突に登場し、物語は桜の木の下の金貨探しを中心に進むのだが、半ばあたりから、桜の木の下に金貨を埋めたという芹沢由郎という男のたどってきた数奇な人生が詳しく語られ、斉木と並んで芹沢がこの小説のもう一人の主人公となる。

金貨という宝探しがテーマの冒険ロマンかと思わせながら、実はさまざまな角度から人間の運命や人生というものについて語った小説であることがわかる。
主人公・斉木光生にとっては、会社からのごほうびでもらった休暇で訪れた新疆ウイグル自治区とカラコルム山脈で体験したことは、日本での生活からは想像もできない生活があることを光生につきつけた。過酷な環境のなかで生きて行かなければならない人たちがいること、しかし、そうした困難のなかでも人はたくましく生きていけるということ等々。このあたりの描写には宮本氏のシルクロードへの旅の体験がベースになっているものと思われる。「草原の椅子」や「星宿海への道」など多くの作品でこの時の経験が登場している。
この小説では、斉木のほかに、同僚の宇津木や川岸が登場するが、結婚していながらバーのホステスと関係を持ってしまってつきまとわれる宇津木のエピソード、若いころに憧れていた女性に似ている骨董品を見つけて大金をはたいて購入してしまう川岸のエピソードをとおして、男にとって女性という存在がどんなものなのかを描いている。
斉木の母が暮らす福井県の武生を年末に一家で訪れて母の打つそばを食べたり、息子がそば職人になろうと言い出すが、人間にとって仕事、職業というものがどういう意味をもっているのか、それは斉木にとっても芹沢にとってもどういう意味をもっているのかが読んでいながら考えさせられる。

困難な人生を送らねばならなかった芹沢由郎がどうやって自分の人生を切り開いていったのか、経済的にはある程度成功したといえるであろう芹沢だが、幸せな人生だったといえるのだろうかと考えてしまう。
和歌山の湯浅町を斉木、川岸、宇津木の3人で訪れてから、桜の木を探すあたりは」とても面白い。自然に囲まれて自給自足で穏やかに暮らすということがなんかとても素晴らしいことのように思える。

斉木の憧れの女性、銀座のバー・MUROYのママ室井沙都は物語に彩りを与えているが、中年男性の願望を人物化したような感じでちょっと作り物っぽいが、武生や和歌山・湯浅町などの描写が印象的で文学の香りを漂わせている。

ゴルフとか食べ物、お酒、骨董などについての描写がここ十数年の作品には登場するが、物語には直接関係ないと思われる場合が多く、作品の完成度を低めている気がして残念だ。そうした余分なものを除いて、密度の高い初期から中期のころのような作品をもう一度読みたいと思っている宮本輝ファンは多いのではないだろうか。

最近、文芸誌「文學界」に新連載「潮音」を連載したりと、新たな世界に踏み込もうとしている宮本輝氏のこれからの作品に期待したい。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
読み終わってから余韻が残る宮本輝の「三千枚の金貨」  新・校正者のひとりごと/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる