久しぶりの試写会で「草原の椅子」(宮本輝原作)を鑑賞

今週、霞ヶ関のイイノホールで開かれた映画「草原の椅子」の試写会に当選し、鑑賞してきた。なかなか良い映画だった。

試写会じたいが数年ぶりの体験で、まだ公開されていない映画を先取りして、しかもただで観られるという優越感が試写会にはある。だから基本的に試写会で観た映画のことは悪く思わないものだが、宮本輝ファンの私が観てもある程度満足できる映画の出来に成っていたと思う。
原作の「草原の椅子」は1997年から98年にかけて約1年間、毎日新聞に連載され、1999年に単行本が発刊されており、出版から10年以上が経過してから映画化されたことになる。これは原作物の映像化としてはかなり珍しいケースではないかと思う。宮本輝氏の小説はかつてはかなりの数が映画化、テレビドラマ化されていたが、近年はめったに映像化されなくなっていた。初期の「泥の河」は原作がすばらしいのはもちろん、映画も近年まれに見る完成度の高い映画であったと思うが、それ以降の映画化は原作ファンには残念に思われるものが多かったことは確かで、たぶん、原作者の宮本輝氏も映画化、ドラマ化に慎重になっていたのではないかと思う。
しかし、今回の「草原の椅子」はプロデューサーの原正人氏や監督の成島出氏の力もあり、原作の味わいを壊さない映画に仕上がっていて宮本輝ファンも納得できるのではないかと思う。

「草原の椅子」の主人公は遠間憲太郎(佐藤浩市)、カメラ会社の(営業)局次長を務める50歳の男だ。彼はバツイチで娘の弥生(黒木華。NHKの「純と愛」で純と同期にホテル入社した同僚を演じていた)との二人暮し。遠間はひょんなことがきっかけでカメラ量販店の社長・冨樫(西村雅彦が好演)と親友になる。ある日、雨の日に乗ったタクシーの中から、着物姿のきれいな女性が雨の中を傘もささずに走る姿を見て惹かれ、彼女が入った建物に入ると、そこは焼き物の店だった。彼女の店に通うようになった遠間は彼女・篠原貴志子(吉瀬美智子)に思いを寄せるようになっていく。そして、もう一人、遠間の前に現れる。それは娘の弥生のバイト先の店長の4歳になる息子・圭輔(貞光奏風)。圭輔は店長の奥さんの連れ子で母親から虐待を受けて発育障害を起こしていた。
こうして、遠間のまわりに冨樫、貴志子、圭輔というつながりができ、4人は人類最後の秘境といわれるパキスタンのフンザへと旅立つ。

劇場公開は2月23日からなので、これ以上は書かないで置こうと思うが、この映画は、今の日本で生きる人、特に大人が感じる生きづらさ、怒り、やり場のない憤りといった原作が持っていたものをよく映像化している。会社で働くということのむずかしさ。金や業績がすべてという風潮に対して納得できない思い、家族との接し方や互いのことをどれだけ分かり合えているのか、わがままな生き方をする人への怒り、自分らしく生きるということのむずかしさ等々、映画を観ながらさまざまなことを感じた。主演の佐藤浩市は、いままできちんと映画を観たことがほとんどないと思うが、いい役者だなあと思った。男の色気があるし、スケールの大きさや渋さも備わってきて、これからますます良い仕事をしていくのではないだろうか。
親友の冨樫を演じた西村雅彦はこの映画の中でいちばん光っていた。もともとうまい人だが、「沈まぬ太陽」を観たときに、ほんとうにいい役者になったなあと思ったものだが、今回も経営者の苦悩と人間味あふれる人物像をみごとに演じていた。こういう脇の人がうまいと映画の厚みはぐんと増すものだ。
吉瀬美智子に関しては、着物姿は美しかったが、貴志子という人物の内面を表現するという点でちょっと物足りなさを感じたが、映画に華を添えてくれたのは確かだ。
その他もなかなかいい役者が出ていて見ごたえがあった。やっぱり、映画は監督と役者次第だとつくづく思った。
今年は日本映画づいている。外国映画も含めて、良い映画をどしどし観ていきたい。

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